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【商品名】 深川と私 |
商品紹介
昭和20年3月10日未明の東京大空襲。当時17歳の少女がその戦火の渦中に一人で取り残された。不思議な声に助けられ、九死に一生を得た火の海からの脱出記を中心に、生まれ育った粋な深川の情趣ある生活を、鮮明な記憶と深い思い出の中に綴る究極の自分史。
書評 戦前の記憶と空襲体験をつづった「深川と私」を出版 「東都よみうり」 2005年5月13日
墨田区八広五丁目の森政子さん(77)が、東京大空襲の体験や戦前の深川の情緒あふれる生活の記憶をつづった本「深川と私」を出版した。
森さん(旧姓関口)が生まれたのは江東区古石場(当時は東京市深川区石場四丁目)で、町の中心に四国の神社の分社の「金比羅宮」(戦災で焼失)があった。病弱で深川病院に通ったが、小学二年で心身が健康になると牛車の荷台に飛び乗ったり、材木の上で遊ぶ“おてんば”
に。そして、友人のおじいさんから度々歴史的な話を聞き、近所の“探検”を始める。
「猿江にサルがいたのかと(おじいさんに)尋ねると、猿藤太という侍が溺れ死んだからと聞いてその池を見に行ったり。ともかく好奇心おう盛でした」と森さん。「深川と私」の一編「深川界隈見聞記」の項目は、富岡八幡宮、門前仲町、錦糸町、月島、両国から押上、浅草・入谷・上野、永代から日本橋に七本。戦前の深川かいわいを知る人には懐かしい内容だ。
大空襲の悲劇と奇妙な体験を書いたのが「不思議な声とコップ1杯の水」。地響きで目を覚ますと外は火の海だった。あきらめて布団に潜って震えていると、不意に名を呼ぶ男の声がした。続いて「水を飲んで気を落ち着けて逃げなさい」との声。水を飲むと震えが止まり、敷布団をかぶって近くの土手へ行く決意をする。「人が紙くずみたいに飛んでくる」熱風のなかを這(は)って進み土手に着くと、今度は「塩浜の原っぱへ行きなさい」との声。ぬかるんだ砂利道を必死に這い、二つの橋を越えて到着した直後、大音響とともに数秒前に渡った「すずめ橋」が焼け落ちた。森さんは参拝に励んだ金比羅さまかご先祖さまが声の主だと信じている。
戦争体験を残すことは使命と感じつつも回想はつらく、執筆中何度も涙が出たが「思ったことはみんな書きました。主に深川、下町の人に見ていただければ」と森さん。同書はそのほか、病弱な少女時代、それを克服するに至った二冊の本との出会い、戦後の生活なども収録。表紙には祖父で狩野派の画家、関口華雪の絵を使っている。
「深川と私」(木鶏書房)は四六判、百六十四ページ。二千円。